そして料理人松下自らその2品をMr.Xのもとに運んだ。トレードマークであるサングラスの奥の表情は読み取る事ができないが、いつもの通り氏は黙ってじっと運ばれた料理を見つめている。そしておもむろにその顔を料理人松下の方へ向けた。「・・・味は確かなのであろうな?」すると松下が答えた。「私のプライドに賭けて、フナムシの風味を存分に引き出した逸品と確信しております。」 ふんふんと頷くMr.Xの額に汗がにじんでいる事を私は見逃さなかった。 やがてMr.Xはゆっくりと箸を持ち、まずは「北京風あんかけ」に箸をつけた。しかし・・なぜかメインのフナムシではなく、薬味のネギをムシャムシャ食べている。我慢できなくなったのか、それまで黙っていた今回のサブシェフである高木がMr.Xに噛み付いた。「なぜメインのフナムシを食べないのですか?あなたは総隊長でしょ?」 ふいにMr.Xの眉がピクッと動き、高木を見やった。 「高木よ、おまえは料理というものがまだ分かっていないようだな。愚か者めが!」 高木はプライドを傷つけられたのか、顔を真っ赤にしている。 Mr.Xは続けた。「料理にも芝居にも主役がいる。しかし主役というのは、脇役があってこその主役なのだ。主役にばかりスポットライトをあてることは素人のすることだ。お前にはそれが分かっていない。この料理を見ろ! なぜネギがあるのか理解しているのか?私には分かる。このネギがないとこの料理は死んでしまう事を。だからあえて私はまずネギを食したのだ。 このネギの歯応え、そして甘み・・・大阪泉南産のネギに違いない。それくらい私は脇役にあえてこだわるのだ。それこそがプロだ!」 すると料理人松下が言いにくそうに口を挟んだ。 「あのー、このネギはスーパーのチラシに載ってた中国産のネギでしゅけど・・・」 Mr.Xは唸った。「ぬぅ・・・。まあ良いだろう・・。では主役を頂くとしよう。」動揺を隠せないMr.Xではあるが、大きめのフナムシを口に運んだ。表情は固まっている。しかし・・2匹、3匹ほど食べたろうか・・・。そしてこう言い放った。